日本薬理学雑誌
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ROS/Gasotransmitterを介するシグナリングと病態
硫化水素とポリサルファイドの生理機能
木村 英雄
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2016 年 147 巻 1 号 p. 23-29

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抄録

硫化水素(H2S)は「卵の腐敗臭」で知られる毒ガスである.一方,メチオニン,システイン,グルタチオン,チアミン,タンパク質構造におけるジスルフィド結合など,イオウは生物界において極めて重要な働きを担っている.このイオウを転移する酵素の研究は1950年代から1970年代にかけて精力的に行われ,H2Sは副産物あるいは単なる酵素活性マーカーとして捉えられていた.1989年から翌年にかけ,哺乳類の脳に内在性H2Sが存在することが報告され,H2Sが何らかの生理活性を持つことが予想された.この報告をきっかけに私たちは,H2Sの生理機能についての研究をはじめ,その後多くの研究者が参入し,神経伝達調節,平滑筋弛緩,細胞保護,抗炎症,血管新生など様々な働きがあきらかになった.私たちはこの研究の途上,SがさらにつながったポリサルファイドH2Snがイオンチャネルを活性化し,カルシウム流入を促すことを見出し,さらに,がん抑制因子活性調節,転写因子核内移行促進による抗酸化遺伝子群の転写亢進,血管平滑筋弛緩による血圧調節などの生理活性を持つことが次々と報告されている.ここでは,H2SとH2Snの生合成,機能およびその作用機構について概説する.

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