日本薬理学雑誌
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特集:アルツハイマー病の診断・治療の基礎理論と臨床の現状―解決すべき問題は何か
アルツハイマー病の治療
―現状と解決すべき諸問題
下濱 俊
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2008 年 131 巻 5 号 p. 351-356

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抄録

アルツハイマー病(AD)の中核症状である認知機能障害に対して使用できる治療薬には,アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬として本邦で唯一使用できる塩酸ドネペジルの他に,リバスチグミン,ガランタミン,またNMDA受容体阻害薬としてメマンチンがある.ドネペジルはAChE阻害作用が強く,リバスチグミンはAChEとブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)の両方を阻害し,ガランタミンはAChE阻害作用の他にニコチン性ACh受容体の作用を増強するという特徴がある.メマンチンはNMDA受容体阻害薬であるが,正常な神経伝達やLTP形成を阻害せず,グルタミン酸の神経興奮毒性による神経細胞傷害に対し保護作用を示すという特徴がある.最近,これらの薬剤は対症的な作用だけでなく,病態の進行を抑制するdisease modifierとしての作用も期待されている.現在,ADの原因および発症に密接に関与しているとされるアミロイドβタンパク(Aβ)に関する研究からAβの産生・代謝に関与する酵素阻害薬および免疫療法などが開発されてきている.これらの研究成果や臨床治験が実を結び実際の治療に寄与できることが期待される.一方,ADの周辺症状である行動および心理症状(BPSD)に対する薬物療法としては非定型抗精神病薬の有効性が確立しつつあったが,米国食品医薬品管理局が死亡率の増加を示したことからその適応については議論が続いている.ADの発症機序は未だ明らかでない状況ではその危険因子を明らかにし,それに介入することで,発症を抑制,あるいは,症状の進行を抑制できる可能性があり,その方面の科学的研究が今後必要となろう.

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