2022 年 63 巻 11 号 p. 1558-1565
CRISPR-Casの発見によって染色体DNAを直接修飾するゲノム編集が容易となり,ゲノム編集が難治性疾患の新たな治療法として着目されている。種々の動物モデルにおいてゲノム編集による難治性疾患の治療コンセプトが得られ,実際にβサラセミアや鎌状赤血球症,ムコ多糖症,レーバー黒内障,トランスサイレチンアミロイドーシスなどの遺伝性疾患やHIV感染症やCAR-T療法へのゲノム編集の臨床応用が始まっている。ゲノム編集技術は食品や植物への応用においては,生殖細胞系列を標的とするが,ヒト治療への応用では体細胞の染色体DNAを標的とする。現段階では,生殖系列細胞へのゲノム編集治療は,倫理的・安全性の面から認められていない。ゲノム編集技術の抱える課題として,オフターゲット効果などの安全性に加え,相同組み換えの低さなどの技術的な点が挙げられる。今後,様々な技術革新によって広い疾患に対して,ゲノム編集の臨床応用が広がることが期待される。