2015 年 56 巻 10 号 p. 2213-2219
iPS細胞等の多能性幹細胞を用いた再生医療が21世紀の新しい医療として注目を浴びている。再生医療研究の多くが幹細胞を用いて目的とする細胞を誘導し移植して治療する細胞治療を目的としているが,臓器そのものを作り出せれば究極的な治療となりうる。そこで我々は膵臓や腎臓といった実質臓器の再生を目指し,動物個体内でiPS細胞由来の臓器作製を試みた。ニッチというコンセプト,胚盤胞補完法という技術の基,マウス個体内に異種であるラットiPS細胞由来の膵臓を作製することに成功した。さらにこの原理を大動物であるブタに応用し,膵臓欠損ブタの胚盤胞に健常ブタの胚細胞を注入することにより膵臓欠損ブタの体内に健常ブタ胚由来の膵臓を作製することにも成功した。異種固体内で目的臓器以外へのヒト細胞の分化を防ぐ方法も可能性を示すことができ,ヒトの実質臓器を再生するといった全く新しい再生医療技術開発の可能性を探っている。