1994 年 32 巻 9 号 p. 867-872
症例は67歳女性. 発熱を主訴に当科入院. 縦隔リンパ節腫大を認めたため検索を行ったが確診は得られず, リンパ節は3週間で自然に縮小, 4ヵ月後にはほぼ消失した. しかし初診から9ヵ月後, 再び前回と同部位のリンパ節が腫大. 開胸リンパ節生検の結果, 転移性低分化型腺癌と診断された. 本例は術後, 現在にいたるまで1年11ヵ月にわたり経過観察されているが, 依然原発巣は不明である. 縦隔リンパ節転移で発見された原発不明癌の例はまれである. また本例では経過中リンパ節の自然消退をきたした点が興味深い. 最大に腫大した前気管リンパ節は, 腫瘍細胞の他に多数の腫瘍浸潤リンパ球で占められており, 周辺リンパ節にはサルコイド反応を認めた. これらの所見は宿主の抗腫瘍免疫反応とする報告もあることから, 悪性腫瘍が自然退縮した可能性が推測され, これは, 癌の進展と腫瘍免疫の機序を検討する上で示唆に富むと考えられたためここに報告した.