2011 年 32 巻 1 号 p. 70-73
感冒様症状での小児科受診が契機となり,診断に到った先天性サイトメガロウイルス(以下 CMV と略す)感染症による両側高度難聴の 3 歳男児を経験した。発語が少なく当初言語発達遅滞が疑われ,精査の結果,先天性 CMV 感染症による両側高度難聴と診断された。実際には言語発達遅滞ではなく,先天性 CMV 感染症に起因した遅発性,進行性難聴に伴って生じた音声言語の退行であった。先天性 CMV 感染症による難聴の診療上の重要な問題点は,乳児期以降の診断の困難さである。臨床像も多彩であり,ほとんどは無症候性であること,そして乳児期以降の診断は乾燥臍帯や乾燥濾紙血を用いた PCR 法によるウイルス DNA の検出といった特殊な方法による後方視的診断しかない点が挙げられる。妊婦の抗体保有率の低下に伴う本疾患による難聴児の増加も懸念されており,小児難聴の診療における先天性 CMV 感染症の重要性を改めて認識すべきと思われた。